世界を敵にまわしても


「夏休みちょっと楽しみになってきたかも」


追い付いてそう言うと、椿は横目であたしを見ながら「フーン」と素っ気無い返事。でもやっぱり、笑顔。


「ま、アイツは忙しいだろうけど、つまんなくは無いんじゃん?」


先生の事を言ってるんだとすぐに分かって、あたしは「そうだね」と返した。


「アチー」


昇降口を出ると、夏らしい真っ青な空が拡がっている。


夏休み中、1度でもこの空の下を先生と歩けるかな。なんて、考えても難しいだろうな。


「……」


もしかしたら。もしかしたらと思って見上げた先に、先生はいなかった。


音楽室のベランダから、ここを見下ろしてるんじゃないかと……。


やっぱり、気にしすぎじゃないと思うんだ。


今までずっと、“いる”と思って校舎を見上げてたはずなのに。


“もしかしたらいるかも”に変わって、いてほしいと願ってる。


そんなしょうもない事と言われても、些細な変化が気になって、苦しくなるんだ。


……変な気分。喧嘩してるわけじゃないのに、苦しいなんて可笑しい。


得体の知れないものに、心の奥底からジワジワと浸食されてる気分。


「はーっ! ……家帰ったら勉強しよ」

「はん!? 今から水着見に行くんだよ」

「え、今日行くの?」



――高校2年生。


今までと180度違う予感の夏休みと文化祭は、すぐそこ。



.
< 364 / 551 >

この作品をシェア

pagetop