世界を敵にまわしても


長くも短くもない、普通の時間だ。


もともとお互い長電話するタイプじゃなかったし、学校で会えてたから今まで何も思わなかったけど。


夏休みで、先生は忙しくて、会えなくて。


夜の一時だけ、ほぼ毎日電話で話すことしか出来ないのは少し寂しかった。


「……ありがとうって何だ」


休んでねって言ったあたしに、前の先生なら「優しい~」とか言ってからかってくるはずなのに。


多分だけど、そう言われるかと思いながら言ったのも確かで。からかってくれたら、あたしも言い返せるんじゃないかって。


……そんな事を、夏休みに入ってからも繰り返してる。


ただ、お互い素直になったとかならいいのに。からかう必要も、それに対して怒ることもなくなっただけなら。


でも、そうじゃない。


一線引かれてる気がしてならないの。


……このままでいいわけがないと思うのに。喧嘩してるわけじゃないから、具体的にどうすればいいのか分からない。


もう一度ちゃんと、先生に問えば答えてくれるんだろうか。


結局未だに、先生はピアニストに戻りたいのか、教師を続けてあたしを逃げ場所にするつもりなのか、分からないままだ。


答えを急かしたいわけじゃないのに、感じる不安があたしを追い詰める。



今幸せかと聞かれたら、あたしは満面の笑みで幸せだと言える気がしない。
< 366 / 551 >

この作品をシェア

pagetop