世界を敵にまわしても


もしかしてと思った。まさかと思った。


あたしは毎朝ちゃんと、登校する時も下校する時もきちんと締めるから。


――バンッ!と音が出るほど勢いよく開けると、見慣れたローファーが揃っている。


だけどいつもと違うのは、その上にペラペラの紙が置いてあったこと。


「……」


もう、分かっていた。何となくではなく、ハッキリと。


封筒もなければ折られてもない紙を手に取ると、すぐに目に飛び込んだ文字。


……ほらね。先生はいつもそう。



『 歌、凄く良かったよ。

  
   ありがとう、美月。 』



こんな紙切れ1枚で。こんな短い文で。あたしが泣くってことも分からないんだろうか、先生は。


先生が作った曲を勝手にアレンジして、歌詞までつけて歌ったのに。晴や椿の先生が悔しがればいいって望みも叶わない。


あたしが伝えたかったことも、願ったことも届いたのか分からない。返事だって、ありがとうだけじゃ分からない。


こんな紙切れを残すくらいなら、何も言わず去ればいいのに。


いつもそう。


いつも曖昧で、肝心な部分を隠して、1人遠ざかっていく。


あたしを置いて、振り向きもせず。


先生、あたしは――…。
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