1ページの沈黙


「別に嫌いじゃねえよ」






頭の上で、そんな声が聞こえたと思ったら、そのまま体に衝撃がきた。



何かと思って顔を上げようとするが、首が動かない。


あ、波多野の手だこれ。


頭に大きな波多野の手が置かれていた。



あたしは反射的にそれに自分の手を伸ばす。







泣きそうだった。





なんで、突き放さないの。



アンタ、昔からそうだ。





なびかない。


そんなのはわかっている。

けど、突き放しもしない。


もっと傷つけて、立ち上がれないくらいにしてくれればいいのに。


あたしなんか、めんどくさいんだから、捨ててしまえばいいのに。


人に頓着しないアンタなら、そんなこと容易いでしょう。





お願いだ。



突き放して。


あたしを。




「波多野…」


声が、震えた。


ここまでしつこくアンタを追ってこれたのは、あたしが気の長い人間だったんじゃなくて、波多野のせいだ。



少しずつ、少しずつあたしに蜜を与えて、

それが毒だったことに今更気付かされる。



お願いだ。




あたしなんか、いらないって言ってよ。




「リカが嫌いなわけじゃない」





やめてよ。



突き放せよ。




「…悪いのは、俺」




ぼろぼろと涙が落ちる。



悔しい。


悔しくてしょうがない。




やっぱり、わかっているんじゃない。










やっぱり、好きだよ。



どうにもならない。





そうやって、波多野は知らないうちにあたしにトドメを刺す。




好きだ。



憎たらしいくらいに。



「……バカ」



擦れた声で呟いた。


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