1ページの沈黙


「ちょ、ちょっと待って」


意識しだすと、もうだめだった。





必用に迫る男の舌。


当たる度に悪寒のはしるピアス。






……あたしはバカだ。




「…やめっ…」




肩を押し返しても、びくともしない。


それどころか行為はエスカレートしていく。



気持ち悪い。





「…ってぇ…」




あたしは男の足をヒールで踏んだ。

さすがに痛かった様で、唇が離れる。



「やめてっていってるじゃない」




あたしが退くと男は距離をつめてきた。


所詮、力では適わずに、また引き寄せられる。




「今更純情ぶんなや」



男は唸るように呟いて、もう一度唇を合わせた。


強引で荒々しいキス。



波多野は絶対しないようなキス。




ああもう。

苛々する。




どうしてあんな、欲のない波多野のキスが、恋しいんだろう。



「!!」


あたしは男の舌を噛んだ。

血の味がした。




怯んだ男を突き放すと、一目散に出口に向かう。




会いたい。



波多野に。







今すぐに!




あたしは走った。



行き先なんて、なかったけれど。




それでも、走った。




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