1ページの沈黙




「ねえ」

「…」

「ねえってば」

「…」

「波多野っ」

「…」



出ました。


お得意のだんまり作戦。



あたしのことが面倒なときとか、あんまり機嫌がよくないときの奴の行動パターン。


こうなったらほっとくのが一番いいって知ってるんだけどさ。




あんまりじゃない?




このあたしが話してるんだ。



少しくらい反応しなさいよ、クソメガネ。



あたしは波多野の肩に手を置いた。

くすぐるように白い首筋を、撫でる。




「…キスしていい?」




ばっ。


そんな効果音がつきそうなくらい勢いよく、波多野が顔をあげた。


眉間には、深い皺がくっきりと刻まれていた。




「キスしたい。波多野」



だめ?



あたしは沸き起こる衝動に我慢しきれなくて、波多野に問い掛けた。



ここで赤くなってくれりゃ、可愛いもんだけど。



肝心の波多野は、私をギロリと睨んで本に視線を戻した。





あーあ。


つまんない男。




アンタにだったら、襲われたって構いやしないのに。




あたしもつられて本を見たが、ヤツとは見る部分がちがう。


まず、波多野の細くて白い指を見る。

角張って触れると冷たいそれは、僅かに動く。

優しく紙の上を滑るように、労るように、ページを捲るときだけ、ほんの僅かに。




その指、舐めてみたいな。



なんてアホなことを考えるあたしは致命傷。


淫乱とか言われてもしょうがない。


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