自由のギフト

芋虫

「終わり!」
三分の一を洗濯機がしめる狭いベランダ。
僕は午前中の家事の終わりを声にだして、大きく背伸びをする。
お日様に温めはじめられた空気が心地いい。
ノカはあいかわらず特等席に座りテレビに夢中だ。
「ねえ、天気もいいし、散歩にいこっか。」
「うん、行く。」
振り向き、嬉しそうに返事をすると、テレビを消して早速玄関にむかった。
僕も、帽子で寝癖を隠し部屋着のスウェットをジーンズにはきかえノカに続く。
玄関では靴紐にノカが苦戦中、小さく丸い柔らかそうな手が不器用に結んではやり直すを繰り返している。
時間に追われる事のない今、微笑ましく 待ち続けられる。
毎日が日曜日になってからの生活。
確実に僕の中の時間の流れが緩やかになった。
いつも立ち止まる事が罪のように感じ、なにか目的がない事に不安を感じていた。
開き直ったって事かもしれない、一応自堕落にならないよう、朝の起きる時間とそれからの家事は決めていた。
たいがいの時間ノカはテレビを見ている、子供向けの番組以外にもおとなしく四角い画面を眺めていた。
驚いた事はたまにだけど新聞も読んでいた。
初めはテレビ欄を見ているのだと思ったが、一度一通り目を通してから、いくつかの記事を読んでいた。
「漢字読めるの?」
僕は冷やかし半分に聞いた事がある。
「だいたい。」とそっけない返事が帰ってきて、それ以上邪魔をするのを止めた。
新聞を読む顔付きはとても年相応にはみえず、もしかすると天才なのかもって、思った事がある。
靴紐に苦戦する姿にそんな相反する姿を思いだした。
「出来ましたか?」
僕の声に反応して、また縦結びになっている紐を無理に横にしようとする。
狭い玄関、お尻をドアにくっつけて彼女の前にしゃがみこむ。
「巻く方向が違うんだよ。」
僕は彼女の靴紐をほどいてから、見本を見して、また紐をほどく。
ゆっくりと再び結び紐を結び始める。
「出来た。」
嬉しそうに僕の顔をみてから、ドアをあける。
多分すぐほどける、結び方がゆるすぎる。
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