貴方の声と遠回しなラヴソング
貴方の声と遠回しなラヴソング

 私の兄――星川友樹は、巷で有名なカフェの支店長として毎日働いている。大学入学と同時に働き始めたその店で、兄は非常に優秀な従業員だったらしい。その成果が認められ、大学卒業と同時に兄は、遂にその店の店長を任されたのだ。
 今年の春、高二になったばかりの私――星川夏稀は週二回、学校帰りに兄が働くカフェへと足を運んでいた。兄の仕事の手伝いをするためだ。少し過保護な面がある私の兄が、自分の店でアルバイトをするように、勧めてくれたからである。
 今日もある程度働いて、時刻は午後七時半を回った所。仕事が終わると、いつも兄が出してくれる紅茶で一息つく。でも、此処の店自体の閉店は午後八時だ。いくら店内が疎らになるとは言え、店自体はまだ開いているので、兄はまだ働いている時間である。
 私はアップルティーを飲みながら、兄の姿を見つめた。支店長、っていうんだから、やっぱり毎日大変なんだろうな。でも、兄が仕事をする姿は大好きだ。自分のやりたいことをやっている兄は、とても生き生きしているから。私はそんな兄に小さく微笑んで、マグカップをソーサーに置いた。

……〜〜♪〜♪

 あれ。私は不意に聴こえてきた店内のBGMの曲に、耳を澄ませた。優しくて甘い声。でも、何処か切なげで、人の心を鷲掴みにする様な、そんな声。初めて聴いた。
「お兄ちゃん、これ、誰の歌?」
 厨房に居る兄に尋ねる。兄は私の声に気が付くと、一旦作業を中断して私の下に来た。
「なに、何だって?」
「今流れてる曲、これ、誰の歌なの?」


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