ストロベリーフィールド
第3章:想い
学校が始まると、また退屈な日々が続いた。
遅刻ばかりの和希は毎日のように先生に呼び出され、翔は相変わらず優等生だった。
私は時々、授業をサボって屋上へ行き、空を眺めていた。

翔との関係に進展はないものの、今の距離感に心地よさを感じ、これからも友だちとして側にいられたらと、思い始めていた。



そんなある日、翔の家へ向かうと階段で"香水の男"とすれ違った。
玄関のドアからは翔が顔を出し、微笑んでいた。

「おぉ、彩。 どうした?」

「CD、持って来た」


私は翔に言われるまま香水の爽やかな香りが漂う部屋へ上がり、ベッドに座った。
そして、いつもと変らない様子の翔に聞いた。

「さっきの人って……翔の彼?」

「よくわかったな」

束の間の沈黙の後、照れたような笑みを浮かべ、翔は言った。

「同じ香りがしたから……」

翔の口から出た言葉に、"彼"の存在が現実味をおび、寂しさとも悲しみとも違う感情が渦巻いた。



――翔…あの日、彼を見送るあなたは本当に幸せそうに微笑んでいて、私はあなたを幸せにできる彼が羨ましかった。
あの頃の私は、あなたを幸せに出来るモノなんて、何一つなかったから――



この日から、翔は私に"彼"の話をするようになった。
翔の心の中を少しだけ見れたような気がして嬉しかったけど、いつまでも笑って聞いていられるほど、私はつよくなかった。

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