天使と野獣

そして車はすぐに千駄木の廃院に着いた。

隣に神社があり、
廃院の横まで神社を囲っている林が続き、
暗い夜半ともなれば不気味さが漂っている。

千駄木から日暮里へと続く大通りは、
夜中でもひっきりなしに車が行き来している。

近くに大きな病院も固まっている。

救急車の音も途絶える事が無い。

それなのにここだけは全く別世界の様相だ。



「ここですか。なんだかあまり気持ちの良い所ではありませんね。

廃院と言うことですが持ち主はいるのでしょう。
勝手に中へ入っても良いものですか。」



ひとつの部屋に落ち着くと、
木頭が囁くように尋ねている。



「構わんよ。
この二部屋はわしが時々使っているからまともなものだ。

廊下の突き当りを右へ曲がった部屋に入ってくれ。

京介、とにかくお前の傷口をもう一度見せてくれ。
そこに上がって寝ろ。」



やはり栄にしても、
大切な息子の銃弾摘出を、

あのような簡単なところでした事で、
何がしか気になっているようだ。

腕には自信があるが… 

ここには必要なものが揃っている。


この病院は元々栄の友人が経営していた。

しかし一年ほど前に跡継ぎのいない院長が急死し、

その妻に頼まれて後始末をしたのが栄だった。


その頃、路上生活者が相次いで襲われたり、

病で倒れたりした光景に出くわした栄。

仲間の医者達と協力して、

時間外に診察、治療に当たる場所として
この廃院の権利を手に入れていた。


内緒だが、
元々この辺りの土地は、栄の育ての親、

大工の父さんが終戦の混乱期に手に入れていたもので、

その院長に貸していたのだった。

だからトラブルなどあるはずも無い。

< 122 / 171 >

この作品をシェア

pagetop