天使と野獣

その変わり身に驚いたものの、

不安に襲われていた安本にとっては
まさに救世主のように見えた。

その証拠に顔に赤みが戻って来ている。



「ああ… ありがとう。
東条、今晩君の家にお邪魔しても良いかい。

お父さんに会って一緒に聞きたい。」



京介の父親が医者だと言う事は… 
担任との会話から聞きもれていた。

東大受験に反対せず、
いや、親ならば嬉しい事だろうが、

普通は可能性を重視するものと思っていた安本には、

とにかく東条京介の父親には興味を持っていた。


まず、息子が毎日弁当を食べて
学校を抜け出している事を知っているのか、

それから聞きたいと思っていた。


しかし、普通ならそんなことは聞けるものではない。

学校へも来たことがないから見たこともない。

今の東条の言葉… 会って話が聞けるなら。



「父に… そうだな。
誰かを家に呼んだことは無いが、
お前は特別だ。

八時以降ならいつでも良いぞ。
じゃあ、教室に戻れよ。俺はもう一つ用がある。

このことは全て他言無用だぞ。
あ、俺の家は… 」


「名簿に書いてあるから大丈夫だよ。」



その言葉に一瞬不可解な顔をした京介だったが、

そのまま廊下に戻り、
二階の二年生の教室が並んでいる方へと向かった。


その後、京介は二年生の流山儀一を呼び出し、
チーズの事を持ち出している。

やはり流山の場合も、安本と同じように、

成績を落とすわけにはいかない、と言うプレッシャーから、
不安を感じるようになり、

増田の親切な態度に感激して、
チーズを愛用する羽目になった。

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