天使と野獣

「警察は吉岡を突き落とした犯人の目星はついたのですか。」



京介は爽やかな高校生として対応した。



「まだ殺人事件と断定はしていませんよ。
単なる事故の可能性も視野に入れて
捜査している段階ですよ。」



その佐伯の言葉… 

警察官がこの場に及んでそんな事を… 

その言葉で京介の態度が一変している。


自分でも大筋を把握出来ていると言うのに、
専門家、税金で食べている警察官が
そんな流暢な事を言うとは… 

許しがたい馬鹿の集まりに見えた。




「冗談じゃあない。
警察は本当にまだそんな事を考えているのか。 

吉岡が持っていたチーズは
どういう経緯であいつのポケットに入っていたかはまだ分らないが、

アレはチーズを見つけた吉岡が
売人の増田を屋上に誘い、

問い詰めている間に反対にやられて突き落とされたのだ。」



京介は目の前の警部に… 

本当はもっと穏やかな口調で報告しようと来たのだが… 

いつもの京介が顔を出し、
口調も荒くなっている。

もちろん、声自体も大きくなっている。



「ほう、まるで見ていたような口ぶりではないか。」



いつの間にか、
佐伯の班の刑事たちが興味のありそうな顔をして集って来ている。



「見てはいないが… 
吉岡は俺の傍に落ちて来た。

あいつは俺に無念を晴らして欲しいと言った。
勿論即死だったから言葉ではないが、
俺にはそう伝わった。

だからこの二日間犯人を捜していた。

あんた達がこんな所で遊んでいる間に、
いろいろな事を聞き回って
大体の構図を掴んだという事だ。

教えてやろうと思って来たが
気が変わったから帰らしてもらう。

こうなれば俺が弔い合戦をしてやるさ。」



まるで映画の世界に出てくるような言葉を、

真面目な顔をして吐き出し、

立ち上がり帰ろうとしている京介。

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