汝、風を斬れ
「では、」
 キュアの声は沈んだ。
「もう会えないの?」
「ここは俺のいる場所ではないし、俺のいる場所は、あなたのいる場所ではない…」

 キュアはこみ上げるものを隠すように、顔を手で覆った。
「……姫様」
 首を横に振る。淡い青色の髪が揺れた。
「……キュア」
 言い直したセントの言葉に、今度は首を縦に振った。指の間から涙が零れる。

「キュア?」
「私……セントと一緒にいて、怖かったけれど、楽しかった。嬉しかった。だから……」
 キュアは顔を上げた。背の高いその人の顔を見るために、顎を少し上げる。すると涙が目の端を伝って行った。

 短い旅だったけれど、その間に起こったことはとても多い。あんなに怖い思いをしたことはなかった。あんなに沢山歩いたことはなかった。ソルド豆だって食べた。森は優しく、雨は静かだった。秋はきらめいて、世界は美しかった。

「あなたがいなくて淋しかった……もっと一緒にいたかったの」
 ねえ、セント。私は何も知らなかった。この気持ちの名も。
「……」
「そばにいてほしかったの……」
 セントはキュアの涙を指で拭った。両手でキュアの顔を包み込むように持ち、自分の方を向かせる。
 そして。


 何も言わず、口付けをした。


「失礼します」
 セントは去った。
 キュアはただ涙を流した。
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