汝、風を斬れ
 自分の上にある、ジンの初めて見る顔。さらさらとした月夜の闇色の髪、彼の上にある空と同じ色をした瞳。見つめられ、見つめ返す。砂浜はしっとりと心地よい。
「好きです」
 尖った顎の上、口が動く。告白は空から降る。言葉で聞くのは初めてだった。
「あなたの髪も瞳も」
 ジンの手がキュアの線を辿る。
「唇も細い肩も…あなたの、優しさも、気高さも、意地っ張りなところも……あなたの、キュアの全てを私は愛しています」

 言い切ってから、ジンは涙を零した。少年のようにポロポロと零れたそれは、キュアの頬に落ちる。水滴は温かい。
 キュアの脳裏にセントの言葉が蘇る。何度も何度も自分を殺してきたジン。キュアを思い、尋常でない自制心を以て多感な少年期を一人の少女に捧げた王子。この熱い涙は潔白の証。
「ジン」
 それほどに想われていたことが嬉しくて、それなのに気付かない自分が情けなくてキュアも涙ぐんだ。
「もっと早く王子様になれば、こんなみっともないあなたを見なくて良かったのに」
 そうですね。ジンは泣きながら笑った。




 スーがジンの背中に鼻を当てた。ゆっくりと体を起こし、連れて唇も離れる。

「ジン」
 城へ戻る道。スーはまた軽やかに走る。
「はい」
 温かい背中にキュアは言う。
「ありがとう」


 あの時、キュアは五歳だった。十八歳の今、再びこの城にいる。全ては運命と呼ばれるものかもしれない。反乱も、セントに会えたことも、ジンの存在も、自分が生まれてきたことも。ここにいることも、そう。
 不安はもう、そんなには大きくない。人間が漠然と持つ未来への不安。同じくらいのそれを持っているだけ。
 大きく開いた窓からは、輝く広大な海が見える。そして潮の匂いと波の音。変わらないものがあることを教えてくれる。ジンの傍で生きることを、この東の国で全うしよう。
 風が、キュアの長い淡青の髪を靡かせた。





Fin.
2006・06・18
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