エージェント
組長からの撤退命令は絶対。
電話を切ると、すぐにこの部屋の片付けを始める。
赤羽の専門の引越し業者は明日訪れる。
ある程度の荷物はそのまま焼却に回され、ここは指紋・痕跡の残らない部屋に掃除される。
必要な衣服、データ関係など西へ持って帰るものはキャリーバッグに詰め込む。
そろそろだろうと見越して準備を始めていたから、明日の朝一ここをでる。
怪しまれないようにここをでるときは阿部コウキで、防犯カメラのない隙間を狙って、別人へと変装する。
「…………」
誰にも、何も言わず、この街を出ることに、みんな怒るだろうか。
悲しむだろうか。
そんな考えを持っちゃいけないのはわかっているけれど、せめて朔羅には別れの挨拶をしたい。
一番無理な人と、わかってるけれど。