はつ恋
トラックは舗装してあるとは信じがたいひどい道路を、上下左右に揺れながらひた走った。
ときおりジョンが道路に悪態をついていた。
途中、運転していたフレッドが、通り道だからと自分の家の前にトラックを止めた。
そこはものすごく粗末な家で、窓も壁もなく、ゴザのようなもので、家が覆われていた。屋根はボロボロのトタン板だ。
フレッドが家に向かって現地語で何か叫ぶと中から若い女性が出てきた。
「カズ、こいつがダイアンです。今度16になる。・・・おい挨拶をしろよ」
ダイアンはフレッドに促され、おずおずとした態度で「よろしく」と言った。
「16だって?ひゃー、リディアより10も下なのか。そいつは羨ましい」
和樹が言った。
「その言葉よーく姉貴に伝えとくぜ」
ジョンが和樹に耳打ちして笑った。
和樹は札入れから何枚かのペソを抜き取ると、お祝いだと言ってダイアンに渡した。
ダイアンとフレッドは、嬉しそうにそれを受け取った。
僕が計算したところによれば、和樹が与えたキャッシュは日本にすれば居酒屋での一晩の飲み代程度にすぎなかったと思うのだが、二人は本当に嬉しそうに、まるで宝くじにでも当たったようにはしゃいだ。
ダイアンは、今日は何時になってもかまわないとフレッドに言った。
「というわけで、今日は何時迄でも付き合いますよボス」
フレッドは満足そうに言った。