素直になれなくて




「じゃあ、"りょうへい"って男は夏美ちゃんの初恋の人で、恩人みたいな存在なんだね」


電車に乗るのをやめ、地元の駅まで歩いて帰ることにした。


「…うん。遼平くんがいたから、今の私がある。っていうのは、大げさかもしれないけどね」

私が小学校の時に不登校だったこと、遼平くんとのことを一通り話し終えたところ。


「で、夏美ちゃんの心残りは"ありがとう"って、伝えることができなかったこと?」


「うん…何度も何度も助けてもらったのに、私の勇気がなくて…言えなかった」


「"好き"って想いを伝えるのじゃなくて?」

「…え?」


「だって、初恋の人でもあるんでしょ?だったら、"ありがとう"の前に、"好き"じゃない?」

ドキン!

確かに、稀田くんの言う通り…けど、私はあの時に決めた。



「うん。でも…あの時、遼平くんには好きな子がいたの。だから、告白するのはやめて…せめてお礼だけでもって」


"好き"という想いを押し殺し、"ありがとう"という感謝の言葉だけでも、伝えようって。


「結局、伝えられなかったんだけどね。昔も、今もー…私、最低だよね!お礼の一つも言えないなんて」

こんな私だから、遼平くんに拒絶されてもしょうがないんだ。

「本当、最低ー…」

あ…ダメだ。
また涙がー…


「最低って、遼平に直接言われたの?」

スッと、稀田の指が頬に触れた。

「!」

零れ落ちる涙を一粒ひと粒、丁寧に拭う。

「う…ううん!」

うわ…なんか、恥ずかしい!

「この間、先輩に絡まれた時に…遼平くんに助けてもらったの。そのことが原因で、遼平くん…謹慎になっちゃったみたいで」

「え?」

「でも、ま、私の思い違いだったみたいなの!たまたま地元の駅で会った時に謝ったら、"関係ない"って言われちゃって」

「…」

「何か…」


あ…また…



「拒絶されたような気がして…」


涙が、出る。




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