人こそ芸術 part1

急いで大橋美鈴の食事を作り、地下室に運ぶ。

これが大橋美鈴の最後の食事。

消化の都合もあり、明後日に僕の作品にすることにした。

もう少しで22時になる。

日曜日の夜は予定が無い限り(それが予定なのだが)栞が家に来る事になっている。

一泊して月曜日の午後に帰るのが僕等の決まりである。



玄関のチャイムが鳴り、栞が来たことを知らせる。

「お疲れ様」

仕事帰りの栞を笑顔で迎え入れる。

栞は手に持っていた紙袋を差し出す。

「舞ちゃんが美味しいって教えてくれたんだ」

紙袋の中には赤ワインと白ワインが一本ずつ入っていた。

栞はバルコニーを向いたソファーに腰掛ける。

ワイングラスとチーズを盛った皿を持って、僕は栞の隣に座った。

「ここの眺め大好きなんだよね」

赤ワインが注がれたグラスを傾けながら言う。

「凄く綺麗なんだもん」

チーズを手に取り呟く。

僕は無言で頷く。

栞が言うように、ここから眺める夜景やキラキラと輝く星、堂々と浮かぶ満月は何とも言えない美しさだ。

バルコニーの窓が額縁になり、一枚の写真の様に景色が納まっていた。


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