六年一組、本紛失事件
22 波教頭の質問責め
 波教頭は高基教諭が音楽室を退室するのをじっと見ていた。

 閉められたドア。

 近くには誰もいないと確信して、波教頭は藤美教諭に近づいた。距離にして五十センチしかない。

「藤美先生の好きな花は何だね?」

 波教頭の言葉は横柄だが、表情は柔和であった。

「花ですか。そうですね……」

 藤美教諭は波教頭の視線をそらすために考えこんだ。

「真っ赤なバラはどうだね?」

「ああ、いいですね」

 藤美教諭は強引な波教頭に、取りあえず返事をしただけであった。
< 174 / 302 >

この作品をシェア

pagetop