思いを手のひらにのせて
voice4 同じ時を過ごして
  『同じ時を過ごして』

そのうち、わたしと幸太は
サークル以外でも会うようになっていった。
 
最初は響優人のコンサートだった。
 
聴覚を失った幸太に、
友人たちは気をつかった。

幸太をコンサートに誘わなくなったことが
友人たちの精一杯の優しさだったようだ。

「3年ぶりだよ。コンサートなんて」

会場の入り口で、
幸太はとびっきりの笑顔を見せた。

コンサートが始まると、かろうじて残る
聴力で響優人を感じたがっていた。
 
カラオケにも行った。

幸太は、やはり響優人の曲を歌う。

上手なのだがどうしても曲の後半辺りから
伴奏とずれてしまう。

聞いていて切なくなった。

それから何度も
わたしたちは同じ時間を過ごした。

普通の会話に手話と筆談の両方を加え、
初対面の時と比べると、
数段コミュニケーションが
スムーズに取れるようになった。
 
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