カジュアルロンド
大学へと続く大通りの花屋の店先で、乳母車を押した若い女性が白い薔薇を眺めていた。
花言葉には『清らかな愛』と書かれていて、その横の待宵草の花言葉が『もの言わぬ恋』。
色々な花言葉があるなと視線をうろうろさせていると、ふと乳母車の赤ちゃんと目が合った。
僕が微笑を返すと、赤ちゃんはかすかに手を動かし笑いだした。

午後から文学部のカナモリと大学で行われる演劇を観る約束をしていた。

大学は夏休み期間に入っていて、キャンパス内は閑散としている。
大講堂の裏手にある芝居小屋に到着したが、まだカナモリは来ていなかった。

芝居小屋からは慌しく演劇関係者が出入りしている。

<カミュ作『異邦人』をモチーフにした不条理劇>

派手なチラシが貼ってある電飾看板を眺めていると、
「開場は30分前からです。少々お待ちください」
受付で整理券を纏めていた女学生がだるそうに告げた。

僕は小屋の外にあった長椅子に座り、ゲーテの詩集を取りだした。
詩が好きというカナとの距離が、気のせいか近づいたような気がする。

僕は煙草を蒸して、空を見上げた。
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