知らなかった僕の顔
二次会に流れる人ごみに、長谷川とさなえちゃんが消えていく。


長谷川に耳打ちされた言葉を思い出す。


「俺は今夜、夏という魔物を味方にするつもりだ。お前は、どうすんだ?」

「…何言ってんの、お前」

「夏はいつだって若者たちの味方だ。覚えとけ」
長谷川は、そう言い残し、ひょこひょことさなえちゃんの後を追って行った。


僕は、二人の後ろ姿をしばらく眺めていた。

さなえちゃんの方が長谷川より少し背が高いんだな…。さなえちゃん、そういうの気にするのかな…。


遠ざかってゆく二人の影は、その距離を急激に近づけて、お互いの腕と腕とを触れ合わせている。

それから手をつなぎだすまでに、時間のかからない二人をぼんやりと見ていた。



わかるけど。
なんでそんなに簡単なんだろう。



二次会に参加しない僕と森若ちゃんは、なんとなく居心地の悪い面持ちでつっ立っていた。


「送っていくよ」
もちろん僕は下心など少しもない、という笑顔をイメージしながら言った。


「あ、でも…近いから大丈夫だよ」
森若ちゃんは、戸惑い気味に言う。


これは…拒否?
…遠慮だろうか?


不思議な面白味を持つ森若ちゃんにすごく興味があるのは事実だけど、なにより女の子に夜道を一人歩きさせるのが嫌だった。


「心配だから、送らせてほしい」


森若ちゃんは、少しだけ考えて言った。
「ありがとう。じゃあ…散歩がてら…ちょっと歩こうか」


風のない蒸し暑い夜だった。

僕らは、よこしまな若者たちの熱気から逃げるように、賑やかな繁華街を離れた。
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