知らなかった僕の顔
静かな部屋で、森若ちゃんが爪を切る音だけが響いていた。


パチン、パチン。


パチン、パチン。


「宮田くん?」


「…ん?」

パチン。

「今度さ」

パチン。

「…うん」

パチン。

「私の部屋に来て」
森若ちゃんは、いつもの優しい声で言った。

パチン。

「…わかった」

パチン。

小さな背中を丸めて、爪を切る彼女の後ろ姿。

僕はその後ろ姿に、ひとことだけ言いたかった。

さっきはごめんとひとこと言えば、彼女はわかってくれたはずだ。

僕は何も言えずに、彼女が切る爪の音をただ聞いているだけだった。



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