知らなかった僕の顔
「ここ、いいですか?」

長身の女の子が、向かいの席を指差し、長谷川に聞いた。

「どうぞ、どうぞ、寂しかったんで僕ら」
必死な長谷川だ。


僕たちは、自己紹介をした。


「森若ちゃん」と呼ばれていたのは、僕がお婆さんと見間違えた女の子の方だった。

下の名前は、「香織」と言った。

長谷川は、長身美人の「さなえちゃん」に猛アピールしはじめた。

僕の向かい側に座る森若ちゃんは、あまり僕に目を合わさなかった。

なので僕は、ここぞとばかりに森若ちゃんを観察した。


森若ちゃんの顔は、ジュディ・デンチというイギリスの女優に似ていた。

確かジュディ・デンチは、70歳を越えている。

森若ちゃんは、けして老けてはいない。お婆さんかと思ったのは、髪の色と猫背のせいだ。

歳は僕より二つ上の、二十一だそうだ。

目の前の、ジュディ・デンチに似た彼女に、僕は安らぎを覚える。

人見知りなのか、無口なところもいい。

運ばれてきたコーラをストローで、目を閉じて飲む森若ちゃん。

うまそうだ。

背中を丸めて、店のメニューをせわしなく吟味する森若ちゃん。

小動物のようだ。

僕の目は、森若ちゃんに釘付けだった。

もっと。
もっとだ。

森若ちゃん、もっと僕の前で、面白ぶりを発揮しておくれ。


僕は、心の中でお願いした。
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