雪花-YUKIBANA-
電車はすぐに到着した。


僕らは同じ電車の、
同じ車両に乗りこみ、

なんとなく同じ椅子に並んで座った。



「どうして50円しかなかったの?」


空席だらけの静かな車内で、僕はふと桜子に尋ねた。


桜子は少し黙って考えたあと


「お金がないから」

と答えた。


……答えになってないじゃん。


そう思いつつも、
猛スピードで流れていく外の景色を見ていたら、突っ込むタイミングを逃してしまった。



「じゃあさ。桜子」

「ん?」

「どうして会食に出なかったの?」

「夕方からバイトだから」

「バイト?」

「うん、お金がないから」

「……」


僕はまたまた、言葉を返すタイミングを逃してしまった。


黙り込む僕らとは対照的に、
景色は流れたり時々停止したりと忙しかった。


「それ、尋ねてもいいの?」


僕がぽつりと言うと、桜子は首をかしげた。


「その、つまり、桜子がそこまでお金に困ってるのは、どうしてなのかなあって」

「ああ、うん」


桜子は真っ黒いパンプスのつま先を見つめ、少し考え込んでいるようだった。

そして


「……お父さんの借金が残ってるから」


と、消え入りそうな声で答えた。
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