ラスト・ゲーム



俺は風に揺られたまま…その場に立っていた。



─どう言えばいいのだろう。


一つのパレット上で、いろんな色を混ぜすぎて…名の無い色ができてしまったような。



何だか、例えようのない気持ちが込み上げる。



麻子も、ただ俺の手をギュッと強く握って…何も言葉を発さなかった。



耳に染み付くのは、精一杯に鳴き続ける…セミの声だけ。



その鳴き声と共に、頭の中で、何度も何度も反芻するのは……

優しい、親父の顔だった。


俺たちはゆっくりと、親父の待つ場所へと近づいていく。






″早水 敦也″






その場所にどっしりと腰を落とした石には、親父の名前がハッキリと刻まれていた。



「………親父…」



自然と口からこぼれた言葉。



俺は刻まれてある名前を…自分の右手でそっと、なぞった。





『元也』








…声が、聞こえた気がした。




< 197 / 209 >

この作品をシェア

pagetop