月と太陽の事件簿15/人形はなぜ捨てられる
「絞殺か…それも引っ掛かるんだよな」

「なんで?」

「普通、居直る奴って凶器持ってるだろ。刃物とか、鈍器とか」

「素手で盗みに入るのがおかしいってわけ?」

「そうじゃない。人ひとり手際よくさらうような奴が、寝たきり老人と鉢合わせたり、絞殺とかいうまどろっこしい殺害手段を使ったりするかなと思ってさ」

達郎は犯人の行動に対して、大いに疑問を抱いているようだった。

「そういえば」

あたしには検死報告書を読んで、気になる点があった。

「遺体には、吉川線がなかったらしいわよ」

首を絞められた際、人は加害者の手や巻きつけられた物をもぎ取ろうとして、必死になる。

爪をたて、自らの頸部には縦に走る傷ができる。

これを吉川線と呼ぶ。

大正時代、警視庁の鑑識課長だった吉川澄一が着目したことから、ついた名前だ。

「他殺の特徴がなかったってわけか」

「検死官は、被害者は寝たきりだったから抵抗できなかったという見方をしてるけどね」
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