忘れられない人
『えっと‥ごめんね?』

見事に龍二の口の横に、ベットリと生クリームが張り付いていた。「またかよ」と心の中で思いながら、右手の人差し指で生クリームを拭おうとした。すると、陽菜が少し舌を口から出して近づいてきた。そして「ぺろんっ」と生クリームを舐め取った。

『うん。美味しいね』

ほんのり赤みのかかった顔に、俺は再び心を奪われてしまった。

『どうしたの?』

心配そうに俺の顔を覗こうとしてきた陽菜の顔を右手で隠そうとした。でも、ここで同じ行動をとったら前に進めないんじゃないかと思い直し、目のやり場に困りながらも陽菜を見た。


漸く気付いたようだな。
そうだ!この先は自分で何とかするんだ。人生はやり直しがきかない。時間を止めることも出来ない。だから後悔しないように、その場に立ち止まらないように。

信じればいい。自分自身を。そして‥陽菜の気持ちを。


すると一瞬、強い光が龍二を襲った。その間に‥

龍二の唇に柔らかい唇が重なった。唇が離れて龍二が瞬きを5回連続してしていると

『ずっと‥ね‥龍二とキス‥したかったんだ‥』

照れながら。それでも一生懸命に自分の気持ちを伝えようとしていた。龍二はハニカミながら笑う陽菜を抱きしめた。

『俺も。ずっと陽菜とキスしたいって思っていたよ』

龍二の胸に顔を埋めていた陽菜は「ぴょん」と頭だけを出した。

『本当?』

『本当』

そう言って、さっきよりももっともっと。陽菜が俺の腕から逃げられないように強く抱きしめた。苦しいって言っても緩めてなんかやらない。

そう思っていた。


『俺の部屋‥来るか?』

陽菜は俺から視線を外し、静かに頷いた。
< 131 / 140 >

この作品をシェア

pagetop