楽園─EDEN─
何度目かのその呼び掛けに、ハッとアダムの意識は急速に現実に引き戻された。
ゴツッ、
「───…っ!」
その瞬間、額にはしった鋭い痛みに眉をひそめる。
しかし、そんな彼に構わず、アダムのその額を拳銃の柄でゴツゴツと叩くのはこの城の主であるカオリ。
「何だぁ?オイ、朝っぱらから白昼夢か」
そう言って、小馬鹿にした様に口端を緩めて笑う彼女は、紛れもなくこの闇の一族・ローゼン・クロイツ家の現当主。
「申し訳ありません」
そんな主の横暴な振る舞いにも特に抵抗を見せず、アダムは額を小突かれ続ける痛みに堪えながら非礼を詫びた。
だが、何故かカオリはアダムを小突く手を止めない。
シンッ…と静まりかえった邸内に、小気味良い打撃音だけが響く。
「カオリ様…痛いです」
すると、大分時間が経ってから、流石に痛みに耐え兼ねたアダムが主人にそう訴え出た。
彼のその表情こそ無表情に近い秀麗なものだったが、右目のモノクルム(片目鏡)越しに見えるその瞳には、“痛い”と言う感情の色合いが何より濃く映し出されていた。
その感情を読み取ってなのか…不意にピタリと手を止めたカオリは、まるで"最初から何事も無かったように"くるりと背を向け、無言で死体に歩き出した。
そんなカオリの背中を眺めながら、アダムは内心でホッと息を吐き、白手袋をはめた左手でそっと額をさする。