~LOVE GAME~


今日も朝から天気が良くて、お祭り日和だった。
この地域のお祭りは夕方から始まり、神社の境内には屋台が立なら時、最後は花火で締めくくられる。
シャワーで汗を流した後、浴衣を丁寧に着始めた。
何度も一人で練習したから、着付けは完璧に出来た。
髪もアップにして飾りをつける。
もし、もしも龍輝君と距離を置く結果になったとしても最後は可愛くいたい。そう思ったから念入りに身支度をする。

「お、可愛いじゃん」

お兄ちゃんが私の浴衣姿を見て、ニヤッと笑った。

「大丈夫? 変なところない? 着崩れしていないかな?」

クルクルと回って見せるが、お兄ちゃんはうんうんと頷くばかり。
もう、ちゃんと見てよね。
本当はお母さんにチェックしてもらいたかったが、昨日から久しぶりにお父さんの所へ行ってしまっていた。

「行ってきます」
「ちゃんと仲直りするんだぞ」

お兄ちゃんは私の背中にそう言葉を投げた。
それには返事を返さずに家を出る。

神社は家から歩いて行ける位近くて、すでに多くの人が浴衣姿で歩いていた。
なんか、緊張してきた……。
待ち合わせ場所が近くなると、緊張でドキドキと胸がうるさい。
六時だから夕日は出ているが、夏なのでまだ明るかった。
暗くなるから大丈夫なんて思っていたけど、まだまだ明るいし……。どんな顔して会えばいいんだろう。
不安な気持ちを抱えたまま、神社の鳥居をくぐると長い参道の両端にはたくさんの屋台が並んでいた。

「うわぁ~」

甘い匂いや焼きそばなど美味しそうな食べ物の匂いが充満している。
お祭りらしい軽快な太鼓や笛の音も聞こえ、こんな時でもワクワクした。
参道を人の波を避けながら通り、境内まで行ってキョロキョロする。
龍輝君、どこかな。
スマホを開くと、『もうすぐ着くよ』とメッセージが入っている。
ハンドタオルで軽く汗を拭き、ササッと身なりを直す。
ドキドキする……。
緊張、不安、嬉しさ、楽しさ、そして早く会いたい。
いろんな気持ちが入り交じったドキドキだ。

人も多いので、境内の端っこにいると龍輝君がキョロキョロと私を探している姿が見えた。
綺麗めの白いVネックTシャツに濃い色のジーンズを履いている。

「龍輝君!」

わかるように手を振ると、私を見つけた龍輝君がホッとしたような表情になった。

「楓、お待たせ」
「ううん、時間ぴったりだよ」

良かった、自然と話できる。

「来てくれて良かった。浴衣姿、可愛いな」

龍輝君は目を細めて、どこか照れくさそうに言った。
なんだかこっちまで恥ずかしくなる。

「楓、俺……」

龍輝君が真剣な表情になったので思わずそれを遮った。

「あの! 先に屋台とか見て回らない?」
「あぁ、いいよ」

ホッとして歩きだそうとしたとたん、足元の段差に気が付かずに転びそうになった。

「きゃっ」
「危ない!」

咄嗟に龍輝君が抱き止めてくれる。
その力強い腕にドキッとした。

「ご、ごめん」

慌てて放れようとすると、その手を掴まれる。

「下駄は慣れないだろ。転ばないように手、繋いでおこう」
「あ、うん……」

大きな手にすっぽりと包まれる。
改めて意識的に手を繋いだことなんてなかったから、恥ずかしくて顔が熱くなる。





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