倦む日々を、愛で。
学生 『扉』
『扉』

 けたたましい目覚ましの音で目を覚ました。何か夢を見ていた気がするけど思い出せない。すこし気になりながら制服のYシャツを手に取り、僕はいつも通り身支度をする。短く単調な朝の儀式のように。


 玄関のドアを開けると思ったより明るい日差しが目を射す。


 そういえば今日見たのもこんな夢だったような気がする。日差しとリンクする夢の光景。重い扉を開けてこんなふうに眩しいほど明るい場所や鮮やかな場所に行く夢。実際の僕ときたら手ごたえのないドアを開けて見た目より軽い通学鞄を肩にかけ、さして印象に残らない毎日を過ごしているわけだけど。なんて、皮肉的な気分で始まる朝。

 よく考えてみたらこの現実世界にだっていくつも扉があるのだ。クローゼット、部屋のドア、玄関にバスの自動扉…今日だけで、もういくつの扉を開いただろう。扉の向こうにあるのは確かに僕の居る世界ではあるが閉めることで切り離されたような、僕の力の及ばない場所になる。その場所を思うと何だかかゆいような不思議な感覚になるのは何だろう。

 教室の扉を開ける。騒がしい声が飛び交ういつもの場所に入る。

 いつも顔を合わせるクラスメートには気の合わない奴もいるし、休みの日にも一緒に出かけたくなる奴もいる。統制がとれているようで混沌とした、そんな場所にいっしょくたに放り込まれた僕ら。
 子供のおもちゃ箱のようだと思う。僕らは気ままな子供が親におねだりして買ってもらった、それぞれがバラバラの目的を持った玩具のようだ。

 机に鞄を置きながらそんな事を考えるともなしにいると肩を叩かれる。何朝から難しい顔してんだよ。これサンキューな。友達が貸していた漫画を返してくれて、僕はいつものようにそれを受け取る。

 おもちゃ箱と違うところはドアがある事。僕らは自信の意思でここを出入りできる。自分で選べるなら囲われた空間も悪くない。引きずるともなしに止まる事のない思考。


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