倦む日々を、愛で。
「ねね、アキってさぁ、冬野が初めてじゃないでしょ?」

げふん。

アキが変な咳をして口からピーナツを吹いた。

「何!急に何!」
「あははは、ごめんごめん。いいじゃん、全部知ってんだからさ。…ただ、冬野とまとまったのって別れた人と何が違ったのかな、とおもって、さ」

ぱきん。軽い落花生の殻。
ちょうどいい手ごたえ。

「やっぱあれ?愛の差?運命みたいな?」
「いやー、愛は…よく分かんないや」
「え、よく分かんないの?」

意外な答えに指が滑る。するっと取り落とす、つるつるのピーナツ。

「愛って言うなら、もう、子供に対する思いは百パー愛なんだけど、ソラ君に対する愛情が…えーなんかソラ君に愛とかって青臭くていやー」

「なんだそりゃ」
苦笑い。取り落としたピーナツをつまみ、口にほうり入れる。
ほうり入れて喋る。我ながら行儀が悪い。

「じゃあその冬野と子供との違いって何?情と、愛情の差?みたいな?」
「違いぃいー?」
首を捻りながらもアキも手を止めない。

落花生と愛が同時進行で進む。
双方とも同じ程度の重要性を持って。

アキの問いに私が答えないでいると何かうまく言えないんだけどね、とアキが切り出した。

「愛って、圧倒的なんだよね」
「これまた抽象的ね。圧倒的に何?」
「圧倒的に、愛」
「ふふ、歌のタイトルみたい」
「からかわないでよ」

アキは少しむっとする。初めて教鞭をとる教育実習生が高校生にからかわれたら、おそらくこんな顔をするだろう。
私は手を止めて、姿勢を正し、続きを求めた。
アキはそうかしこまられちゃ、とか言いながらのらりくらりと話し始めた。

「なんか、愛って何にでもなれるくらい没個性で、だけど存在感があって、非生産的で、でも愛からは何でも生まれる、みたいな…なんかとにかく、愛は愛。圧倒的に、愛」

圧倒的に、愛。

「だとすると子供はスペアがないけど冬野は変わりがあるみたいな話になっちゃうんだけど…」
「えーと、それ、私に説明させるの?」

アキが笑った。
私も笑う。
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