宵闇
僕の決心。
彼女はとても綺麗だ。

細い綺麗な指先。

髪を書き上げるしぐさ。

整った顔立ち。

スタイル。

どれをとってもパーフェクトといえる。

ただ、ひとつだけを除けば・・・。

彼女には闇がある。

一度だけ泣いてぐしゃぐしゃになった顔を見たことがある。

その時僕は何もできなかった。そう、何もひとつを抜かしては・・・。

なぐさめる言葉も見つからなかった。

泣く姿も綺麗過ぎて・・・見とれてしまっていたんだ。

彼女の闇は、妻子ある人に騙されてしまったことだ。

僕は知っていた。なんとなくだけど、知っていたんだ。

一緒に帰るところも見たし、相手には特別な笑顔で接していたことも・・・。

僕は・・・知っていた。

僕は、彼女よりとても劣っている。

見ているだけがお似合いといえばそうなのかもしれない。

とても相手にしてくれない。

ずっと、そう想っていた。

だけど、あの日・・・

彼女は僕に『ありがとう。』と言ってくれた。

それは彼女が妻子ある人に振られて泣いていた時に何もできなかった僕は、

それでも勇気を振り絞ってハンカチを黙って手渡した。

彼女はそのハンカチで涙をぬぐった。

そして、何も言わずにその場を走って立ち去ったんだ。

あの日、彼女は照れくさそうな笑みで綺麗になったハンカチを手渡してくれた。

『内緒にしてください。』

小声でそういいながら・・・・。

僕は、僕は・・・

気の利いたことが言えればいいのだが、何もいわずに会釈だけしてハンカチを受け取った。

勇気のない僕。

でも、これが僕なのだ。

だけど、僕の中では何かが変わろうとしていた。

彼女のことが知りたい。

釣り合わないかもしれないけど、僕は彼女のためになにかしてあげたい。

PCの前に向かい、彼女のハンカチを横において僕の中でできることをしてみようと決めた。

僕にとってこんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。

出さなきゃいけないんだ・・・。これを逃したら僕が僕ではなくなってしまうような気がした。

その気持ちを胸に僕は強くなろうと決めた。
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