短いの【ショート集】


「ふと君の寝顔を見てる内に睡魔に襲われ夢の中でも君に会えるようにと願った所まで覚えているが、以降は記憶として残っていないんだ」

「私はあなたの胸の温もりと胸板の厚さを感じながら、それが夢か現実かわからなくなって堕ちるように眠りについていたわ」

「目が覚めた時、君がハサミで切り取られたかのように居なくなっているのに気付いて思わず空間に手を伸ばしたよ」

「私はあなたの寝顔を暫く、と言っても時間が止まってどれ程幸せを感じていたかわからない位、あなたを目に焼き付けてから頬とおでこと唇にキスして、ゆっくりシーツを肌から離したの」

「羨ましいな、シーツの奴。最後まで触れていた訳か。でもキスの味まではわかるまい。無論俺も眠りに閉じこもって折角のキスに気付けなかった訳だが……」

「いつでも味わう事が出来る癖に。私の唇の一番の役割はあなたにキスする事。昨夜もあんなに見せたのにまだ物足りないのかしら。欲張りな人」

「俺は欲張りで、嫉妬深いんだ。シーツを出た君の生まれたままの姿を一番に見たいのに、アンティーク家具達に先を越されてしまった。昨夜のキスの味も俺より俺の息子の方が堪能したんじゃないかと思うと妬いてしまうよ」

「あなたはあなた自身にも妬くのね。あなたの唇へキスした回数とあなた自身にした回数ではあなたにした方が多いって事をあなたはあなた自身よりもわかってるはず。そして大丈夫、家具達には少し目を閉じるように忠告したから」

「なら安心だ。ところで歯磨きは済ませたかい?俺はまだなんだが暫く笑顔を絶やさず待っていてくれないかい?」

「おやすいご用。あなたの前で笑顔を絶やす事なんてないわ。でも一体どうしたと言うの?歯磨きを済ませた事と笑顔の行方に関係が?何だか隠し事のようで不安よ。ねえ、はっきりいって」


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