コーヒー溺路線
 

あさひは小さくはいと頷くと腰掛けていたソファから立ち上り、スリッパをパタパタと言わせながらリビングを出て行った。
鎖骨の辺りで揃えられた黒髪が揺れた。
 


 
「……」
 

 
「驚いた。あの子、貴方に連絡していたのね」
 

 
「えっ」
 


 
俯いていた松太郎は驚いて顔を上げた。
松太郎は愛里が自分の連絡先を教えたものだと思っていたからだ。
 

愛里は愛里で予想もしていなかった出来事に驚いているようだった。
 


 
「母さんが教えたんじゃあなかったの」
 

 
「あら、それは違うわ。私も今知ったもの」
 

 
「一体どうやって」
 


 
頭を抱えるようにして再び俯いた松太郎を見て愛里はくすりと笑った。
 


 
「でも、そうなの。あの子はきっと貴方のことが好きなのね」
 

 
「そうかな」
 

 
「相手の迷惑も考えることができなくなるくらい、自己主張も強い気持ちなのね」
 


 
参ったなと松太郎が漏らすと、愛里はとても嬉しそうにしていた。
それに気が付いた松太郎は首を傾げて愛里を見上げた。
 


 
「貴方は優しいから、きちんと返事をしてあげそうなものなのに。意外ね」
 

 
「優しくなんかないよ。好意を寄せられているなら尚更だ。可能性もないというのに期待は持たせるものじゃない」
 

 
「あら、可能性はないの?少し大人しいけど良い子だと思うわ」
 


 
可能性のなさをはっきりと断言する松太郎に愛里は首を傾げた。
 


 
< 183 / 220 >

この作品をシェア

pagetop