コーヒー溺路線
 

こうして抱き締め合ってからどれくらい経っただろうか。
松太郎は彩子を離そうとしなかった。
 


 
「松太郎さん?」
 

 
「うん」
 

 
「あのう、もうそろそろ二時になりますけど」
 

 
「ずっと我慢していたんだ、もう少し」
 


 
ああ何という恥ずかしいことを。彩子は体中の水分が沸騰して蒸発してしまいそうな気分だった。
 

思ったことを口にする松太郎は、誰もが普通はクサいと言うであろう台詞を簡単に言ってしまう。
それが似合う男だ。
 

参った、こんなにイイ男に愛でも囁かれたならばどんな女も腰砕けになってしまう。彩子は頬を擦り寄せながら思った。
 


 
「彩子」
 


 
彩子はどきりとした。
本日何度目だろう。
 


 
「彩子、もう俺の彩子だ」
 


 
ああ、こんなのってない、彩子は自分が松太郎に溺れてゆくのを感じた。
超能力でもあるのだろうか、松太郎は彩子が欲しい言葉をくれるようだ。
 

そうだ、この男は狡いのだ。
 


 
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