口笛
 いつも一緒に帰る和也が、そんな彼女からの誘いの言葉に、少し離れたところで聞き耳を立てていた。

「じゃ、和也も一緒に帰るべ。なっ、和也?」

 僕は和也を裏切るわけにはいかなかったが、真夏とも帰りたかったので、和也も誘うことにした。僕の誘いに応え、うれしそうに和也も話しに入ってきた。

「おらも吉住町の方なんだ。奇遇だな奇遇!」

 お調子者の和也が“奇遇”なんて言葉を使うのもおかしかったが、なぜかそれも許せた。下駄箱のところで上履きから外履きに履き替えると、校門の近くに見慣れない女の子が立っていて、誰かを待っている様子だった。

「あっ、アネキじゃ」

 一年上で真夏と一緒に転校してきたという彼女の姉が、そこにいた。そこで、真夏のことを心配で待っていたらしい。

 結局、真夏の姉と僕らで帰ることになり、帰り道は妙な雰囲気となった。真夏の姉は、真夏とは逆におとなしそうに見えた。別れ際、彼女は僕らに、

「真夏のこと、よろしゅう頼むけぇ」

 と告げた。真夏の姉も当然のことながら広島弁だった。僕らは、言われなくてもよろしくしますよ、そう言いたかったが、和也と僕は年上の言葉に、素直に敬礼して答えた。

「分かりましたっ」
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