口笛
 僕のポリシーとして、自分から待ち伏せして喧嘩を仕掛けたりすることはなかったけれど、クラス対抗のドッチボールやキックベースボール等では、徹底的に勝ってやっつけるようにクラスの皆を焚きつけていた。

 僕は当時、体が小さく、まともに喧嘩をしても勝てそうになかったということもあったのだが、逆に、そういう態度が気に障ったらしい。そんな、妙な盛り上がりが体育の時間ごとに繰り広げられていたのだ。

 ある日のことだった。その日の最後の授業となった体育の時間に、僕らは隣の組とキックベースボールの試合をした。毎度のことであったが、熱戦となり、皆闘志を剥き出しにして試合が進行した。授業の終わる最後の5分を切ったところで僕らのチームは逆転。劇的な勝利を収めた余韻に浸りながら、僕らは帰途についていた。

「あの時の和也のホームランが利いたよなぁ」

「いや、真夏の守備も良かったよな、ランナー、背中にボールぶつけられて、吹っ飛んでだもんなぁ」

 そんな会話で盛り上がりながら途中の畑に差し掛かったときだった。

「おい、なに自慢してんだ。女と一緒に帰っで、いい気なもんだな」

 隣の組の琢己だ。後ろには取り巻きの連中が4人いた。

「なんだ、待ち伏せが、だっせーな」

 こういう時にめっぽう気が強い和也も挑発に乗った。

 僕は思わず「チッ」と舌打ちをした。
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