溺愛プリンス


茜色と
夕暮れ時。




あたしはこの瞬間が嫌いだった。


……オレンジに染まるこの世界は、あたしを過去へと引きづり込む。





「……」




――――ガラガラ








鼻につく独特の印刷物の匂い。
それから、少しだけホコリっぽさが肺を満たす。


やって来たのは、大学の図書館。




この建物はかなり古い。
ここの書物で読んだ資料によると、明治時代初期に造られた建物らしい。


あたしは、この図書館が好きだった。
大きなガラス窓沿いには、読書や勉強をする人の為に机がいくつか備え付けてあった。


その一番奥が、あたしの指定席。
今の季節なんか、そこに座ってるだけであったかくて……。




……忘れられた。



嫌なことも。
なにもかも。


全部。





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