溺愛プリンス


振り返るよりも早く、長い腕が伸びてきて自然な力で抱き寄せられる。


え?


動けずに固まっていると、そのまま顎がすくい取られた。

気が付くと、目の前には瑠璃色の瞳。
息もかかりそうな距離で、ハルがあたしを見つめていた。



「……」


な……なんで……。


カーテンで仕切られたフィッティングルーム。
その中で、さらにハルの腕に閉じ込められた。



ドックン ドックン



わけがわからないまま、心臓だけは加速する。

瞬きすら忘れて、あたしは少しだけ近づいたハルをただ見つめ返した。




「返すものがないって?」

「……え?」



囁くようにそう言われ、甘い吐息に目眩がした。

真っ黒な髪が、その顔に影を落とし瞳が妖艶に細められる。




「なにをバカな事……」




顎に触れていた指先が、頬を滑り唇に触れる。
震える唇に、彼の親指が押し当てられた。



「俺は求めてる。
こんなふうに……ずっと、な」




……ハル?


そして、チュッとかすかに触れたぬくもり。
唇の端に感じた甘い刺激に、ハッと我に返る。


ボンッと真っ赤になったあたしの頭をくしゃりと撫でて。
ハルは呆気なく、カーテンの向こうに姿を消してしまったんだ。



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