溺愛プリンス


「お疲れ様です!」


なんとかバイトの時間に間に合って、慌ただしくお店に駆け込んだ。

時間ギリギリだ。



「あ、志穂どうしたの……って、大丈夫?」

「っ、はあ……はあ、なんとか」




茜とは、ここで交代。
今から8時までの3時間は、篤さんとふたりきりになるんだ。

忘れていた事を、今になって後悔した。

もっとイメトレとか、心の準備とか、色々しとくはずだったのに。
ハルのせいで……。


うちの狭いクローゼットの中には、いまだにあのドレスがあるのだ。

なんとかして返さなくちゃ。
思い出したら、あの横暴っぷりに腹が立ってきた。


……でも。



ギュッと体に回されたハルのぬくもり。

それと同時に、甘い囁きが、鮮明に蘇る。
慌てて頭をふって、その感触を掻き消した。


うわーーん。もう、なんなのよぉ!


悶々とそんなことを考えていると、茜が顔を覗き込んできた。



「めずらしいね、志穂が時間ギリギリとか。なんかあったの?」

「……それがさ、」



クスクスと笑いながらそう言う茜に、今日の事を説明しようとしたその時。
お店の奥から、篤さんが現れた。


あ。

ドクン!



「やあ、志穂ちゃん。今日もご苦労様」

「……お疲れ、さまです」


そう言ってやわらかな笑顔を零した篤さん。
いつもとなにも変わらない。


告白してフラれたことを気にしてるのは、あたしだけ。


あたしだけだ。


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