溺愛プリンス


「それよりヒロ兄! 今までどこに言ってたの!?」


思ったよりも身を乗り出していて、慌てて平静を装う。

ここは、アツくなったら負けだ!



「はは!何を今さら、旅だよ旅!ホーローの旅。エジプト行くって言ったろ!」

「うんうん。そうだったよね……って、そうじゃなくてッ」


こ、この人はなんでこうも軽いんだろうか。
思わずカップを持つ手に力がこもる。



「い、一応はこの大学の首席で、ハルのお付の人やってたんだから途中で放り出すとか本当に最低だから!」

「……なんか色々間違ってるけど、まぁ、いいや。
あんなぁ、まさか本気で俺が呑気に旅行行ってると思ってたわけ?まあ、後半はほんとにエジプト行ってたけど。
俺は!半年語学留学制度使ってたの。ハルだってそうだろう」

「ごがく、留学……」



ヒロ兄は呆れながらそう言うと、残りのコーヒーに手を伸ばす。

あたしはしばらくその様子を眺めて、考える。




半年の、留学制度……?
ハルも、同じ?





そこでハッとして、思わず椅子から立ち上がった。



カチャン!

丸いテーブルの上で、カップが揺れた。




「……てことは、ハルはもうこの大学には戻ってこないの?!」



少しだけテーブルを汚したコーヒー。
キョトンとしたヒロ兄は、そこに視線を落とし、それからゆっくりとあたしを見上げた。




「アイツ、なんも言ってなかったの?」

「…………」



……言ってない!!!!!


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