A線上の二人



「だからねぇ。最近、本当に忙しいの」

 残業続きでハードだった今週のスケジュール。

 それをやっと終えて、車の運転中に携帯が鳴った。

 相手が史之だったから、とりあえず車を停めて出たものの、最初から喧嘩腰でついつい口調がきつくなった。

『まだ平社員だろ? 役職でもないのに、なんでそんなに残業ばっかりなんだよ』

 史之の仕事はどうなのか知らないけれど、私も入社して2年目になる。

 新人気分はすでになく、任される仕事も増えてくる時期。

 私のまわりではそれが当たり前だったから、つい言葉に出てしまった。

「任される仕事もあるの。いつまでも新人扱いなんてしてくれないんだから、仕方がないじゃないの」

 悪気なんて何もなかった。

 でも、明らかに史之にとっては〝痛い〟一言だったらしい。

『ああ、そう。お前は任される仕事があっていいな。俺なんかはいつまで経っても若造扱いだしな』

「え……?」

『じゃあな。〝忙しいところ〟失礼しました』

 それだけ言われて、通話は切られた。

 後で彼と同じ会社に就職した友達に聞いた話しでは、彼の会社での評価は良くなかったらしい。

 仕事中に私用でメールをしたり、サボっていたり……

 そういえば、明らかに就業時間内にメールが来ていたこともあったと思い出す。

 入社してしばらくすれば、それなりに仕事を割り振られるが、彼に渡される仕事といえば簡単なものばかり……

 そもそもが自業自得な訳だれど、その八つ当たりをされたらしい……と、後から知った。

 でも、知った時にはすでに遅く、私は毎日の忙しさに連絡がないことにも気付かずに、気付いて連絡した時には、史之の心は離れていた。


 だから、

「別れよう」

 普通の居酒屋でそう言われて、何故? だとか、どうして? の疑問はわかなかった。

「そう」

 久しぶりに会った。

 たぶん、2ヶ月ぶりくらい。

 わざわざ水曜日に連絡があって、金曜日に会いたいと言われた。

 その時から、覚悟はあった。

 残業もしないように、前々から先に仕事を終わらせて……



 って、フラれるのを解っていながら、頑張るのもなんだけれど。

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