A線上の二人



 思えば、私は本当に鈍感で、恋愛音痴だったんだな……と思う。

 同年代の友達は、恋だ恋人だ……と、華やかに騒いでいる間、私は仕事に楽しみを見つけていたりして……。

「千夜、女を捨てるんじゃないわよ?」

 珍しく定時で仕事も終わり、化粧室でお化粧直しをしていたら、友達の舞香にそんな事を言われた。

「え。眉太い?」

 思わず鏡を見直す。

 ……て、普通だよね?

「……違うわよ。彼氏と別れてもうかなり経つでしょう? って、話」

 ああ、そっち。

 まぁ、気がつけば、史之と別れて3ヶ月経とうとしていて……

「新しい恋してる〜?」

「そんな事を言われても……出会いがないわよ」

「出会いなんて待っててもないのよ! 昔話やお伽話とは違うんだから、もっと果敢にならなきゃ」

「果敢に……って」

「残業残業ばっかりで、合コンにも参加してないでしょう」

「そりゃしてないけど」

「今晩あるから来てよ」

「来てよって……今日は確かに暇だけど」

「ならさ……っ!」

 と、舞香が勢いついた所で携帯が鳴った。

 着信を見て眉を寄せる私に、舞香も私の携帯を覗き込む。

「羽生達哉?」

「あ、うん。親戚」

 珍しいな。

 達哉くんから連絡くれるなんて、1年にあるかないかくらいじゃないかしら?

 ……人にはさんざん〝気が向いたら〟来る、みたいな事を言うけれど、達哉くんも相当だと思うな。

 まぁ、達哉くんのお仕事って、定時があるのかないのか解らない仕事だし、タイミングが……

「出ないの?」

 と、言われて、慌てて着信ボタンを押す。

「もしもし」

『千夜』

 いつも通りの冷静沈着な淡々声。

「はいはい」

『忙しいか?』

「ううん。仕事上がったところよ」

『じゃあ、うちに来てくれないか』


 ……はい?


「どうして?」

『コンクールで入賞したから』

「……………」



 どうしてそんなに冷静なんだっ!?

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