A線上の二人



 とにかく、経緯はどうあれ結婚式も恙無く無事に済んだ私達。

 普通なら甘い空間が漂うはずなのに……。

 こればかりはハッキリさせようと彼を睨む。

「普通、酔っ払ったら介抱するわよね」

 それを、事もあろうに抱いちゃうってのは、男性としては最低の部類じゃなかろうか?

 そんな疑問をぶつけたけれど、

「据え膳だったから」

 淡々と言われて、ある意味では納得した。

 確かに、達哉くんも男だもの。

 その男性を前にして、酔っ払った女なんて据え膳以外の何者でもないかもしれない。

 私も軽率だった……

「……いや、でもね?」

 そういう問題なの?

「……もう待つのも、我慢するのも、黙っているのも嫌だったからね」

 そう言いながら、私の座っているソファーのひじ掛けに腰を下ろして、どこか自信満々に腕を組む。

「…………」

「…………」

「待ってたの?」

 首を傾げて見せると、何故か黙ったまま彼は私の髪に触れて、指に絡ませて弄び、

「……音楽をかけよう」

 ハッキリと話題を変えてきた。


 それ以上は言いたくないらしい。


「達哉くんて……言いたくない事と、言いたい事とがハッキリしてるわよね」

「うん」

「…………」

 何を流すか知らないけれど、オーディオに向かって行く彼をまた睨む。

「BGMかけても、この問題は流さないわよ」

「嫌だった?」

 CDを探しながら、振り返りもしない彼。

 まぁ、私も甘い言葉を期待していた訳じゃないけれど、

「少しくらい言え」

 小さく文句を言うと、微かに笑って、彼は振り返った。

「じゃあ、千夜も言ってよ」

「え……」

「僕も実感したいな」

 何をだろうか。

「僕の事をどう思う?」

「…………」

 そんな言葉が達哉くんから出て来るとは、思ってもみなかった。

 何だろうか。

 それこそよくある恋愛小説並に〝好きよ〟だとか、〝愛しているわ〟とか、言わないといけないんだろうか。

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