A線上の二人



 昔の懐かしい綺麗な思い出たち。

 そんな事を考えながら帰宅すると……

「ちや。達哉くんの家にコレ届けてくれない?」

 いきなり煮物の入ったタッパを突き付けてくる母。

「………私、残業して帰ってきたんだけれど?」

 パンプスを脱ぐ足を止め、それから笑顔の母を見る。

 とても素晴らしい、晴れやかな隙のない笑顔。

 ……聞く耳は持っていないようだ。

「いいじゃない。車で5分の距離よ」

「はいはい」

 溜め息混じりに受け取って、達哉くんの家に向かった。

 思えば、電話で何度かやり取りしているけれど、会いに行くのは久しぶりかも。

 確か、学生の時だから……。

 一昨年。


「……またやったなぁ」

 ぼやきながら車を走らせる。

 達哉くんて、しばらく会わないとイヤミっぽいんだよね。

 チクチクと言うより、いきなりスパンと言ってくるっていうかさ〜。

 まぁ、しょうがないじゃないか。

 私も社会人だし、達哉くんだって楽団のお仕事の他に、お弟子さんみたいな生徒さんにヴァイオリンを教えているんだし。

 それに、達哉くんは遠い親戚ってだけで、私は彼氏持ちなんだし……。

 史之なんて、他の男と出歩くのって嫌な顔するしさ。

 自分は営業職で、ろくにデートの時間も作れないくせに。

 ……私も、たいして作ってないけれど。

 史之とは大学の頃から付き合いだからなぁ。

 どうもなぁなぁになって来ているかも。

 同じ大学で、講義を受けている時、隣り合わせの席になったのがきっかけ。

 気がつけば、隣りに座る事が増えていて。

 気がつけば、一緒に昼食を食べるようになっていて。

 気がつけば、ライブにも出掛けたり、飲みに行ったり……。

 そして、告白された。

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