Santa_Claus
 ジャックには、物心がつく前から母親も父親もいなかった。両親の顔を見るどころか、声さえ聞いたことがない。

 と……いうのも、ジャックは民家の前に捨てられていた、いわゆる“捨て子”というもの。

 その民家の住民……否、今の家族の老人夫妻に大事に育てられ、今年でジャックは、つい最近無事に11歳を迎えたばかりだ。

 ……捨て子のジャックを拾ったその日を、老人夫妻はジャックの誕生日としている。

 ジャックは自分が捨て子だということに気付いてはいるが、そのことを老人夫妻に話すつもりはこれっぽっちもない。


 ――変な心配を、かけさせたくないから。


 今まで、ジャックは出来る限りの恩返しはしてきたつもりだ。

 今だってこうして、足の不自由なお婆さんの代わりに、スープの食材を買いに夜の街を歩いているのだから。

 ――ザクッ。ザクッ。

 歩き続けていると、ジャックの住む家の窓からほんのりとした明るい灯りが、外に向かって射し込んでいるのが見えた。


「もう少し……だ」


 ジャックは家につくまで足を止めることをせず、歩き続けた。
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