最果てのエデン

「――美月はさ、何であいつを恨まなかったの」

「……あいつ?」

「どう考えても罪があるのは、あの運転手だと俺は思ってた。美月を恨もうなんて思いつきもしなかった」


そう言い切れば、美月は思い出そうとするようにうつろな瞳を彷徨わせた。

なんでこいつは自分ばかりを責めたがるんだろうな。
言葉が足りなかった過去の自分にも責任の一端はあるんだろうとは思うから、その分だけでもはっきり言葉にしていこうとは思う。


雨の日、駆けつけた病院で、蒼白の表情で土下座していた男の姿を思い出す。
けれど、その後はずっと弁護士を通しての手紙しか寄越してこなかった、情けない男。

怒りを過ぎれば、残ったのは苦い思いだけで。
彼の家族もまた被害者だろうと思うには、誠意が足りないような気がしてしょうがなくて。

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