最果てのエデン

――でも。


懐かしいように感じる匂い。
懐かしいような気がした料理の味。

それはもしかしたら本当かもしれないけれど、あたし自身の願望かもしれないと思う。

『万葉』に引きずられている。
あっという間に。浸食されている。


「……浸食」


呟いてみて違うなとあたしは確信する。

うん、違う。
あたしが勝手に万葉を思い出してるだけなんだろうな。
ここに万葉がいてくれていたら。あたしの隣にずっといてくれていたら。

あの時――。


あの時、死なないでいてくれたら。


ひゅっと右眼の奥が痛んで、あたしは前髪の上からそっと手で押さえた。

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