Love Water―大人の味―




「あんな顔、見たことない…」



キスをされて、呆然としたまま顔を上げた先にいた彼の瞳は、黒かった。



見下すような哀れむような、それでいて、譲らない強い光と強引さを持った瞳。



慮って考えているのではなく、ただたんたんと目の前の事実だけを受け止めた彼。



告げられた言葉を思い出すと、僅かに顔がほてる。



どうして『よかった』なの。



『上司』と『部下』じゃなくなったら、なんなの。



どうして………部長がキスなんてするの。



ぐるぐる、ぐるぐる、考えれば考えるほど部長が分からなくなる。



部長の言葉の意味が、分からない。



「はぁー……」



長いため息をついたあたしは、首を振ってすぐそばのお風呂の蛇口をひねる。



考えるのはやめた!



考えても仕方ないことは、考えるだけ無駄。



そう思って部長のことを頭から放り出す。



お風呂に入ってごはんを食べて、少しお昼寝をしたら、街に出て買い物をしよう。



そんな1日の計画を立てながら、昨夜のことは考えないようにした。




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